上限 5分30秒
その人そのものへ
0:00
のこり 5:30
12枚の写真80秒1:20

〔写真①を提示〕

一枚の写真をご覧ください。

一緒にお昼ご飯を手作りしている光景です。野菜を上手に炒めています。

——たとえ認知症の状態であったとしても、

手に馴染んだ記憶は、こうして、いつまでも残っています。驚きです。

この方は、奥尻島に生まれ、長い間、漁師たちに賄い飯を提供してきました。

函館へ移住後は函館競輪場に20年間お勤めされ、

函館市から永年勤続表彰を授与されています。

〔写真②〕

同じ方の、10年後です。

車いすに座り、か細い腕で、両手を添えて、湯呑を口元へ運んでいます。

誰の手も借りずに。ひと口含んで、ホッと一息つかれる。

——自分の人生を生き切ろうとしておられるその御姿、驚きです。

2物語を介して出会う40秒2:00

いま、皆さんは、この方をどう見たでしょうか。

「車いすに座る高齢女性」でしょうか。

おそらく、このようにご覧になったのではないでしょうか。

奥尻島で漁師に賄い飯を提供していた人として、

あるいは競輪場に20年勤め続けた人として。

そうです、人は、物語を介して、人と出会います。

今日は、このお話をいたします。

3問い40秒2:40

私は、グループホームで働く介護職です。

日頃、認知症の状態にある方々の支援に携わっています。

私たちは日々、ご利用者の血圧を測り、食事量を数え、

夜の見守りを記録しています。

「安全に過ごしてほしい」という願いを込めて。

しかし、そのようにして記録し続けていながらも、

この10年間、私は、ある問いに答えることができずにいました。

——その人の人生を、もっと豊かに語り得ないだろうか。

4もう一つの支援30秒3:10

人は誰しもが、自分の人生を生きる物語の著者です。

要介護状態で、認知症の状態であること。

それは、介護を必要としている体であるだけでなく、

自分の人生を書き留める手段を失った状態でもあります。

歩行が困難な方には、車いすが給付されるように、

自分の物語を書き留められなくなった方には、

どのような支援を提供できるでしょうか。

5フォトブック30秒3:40

このような思いから、私たちは介護記録の一部として、

フォトブックの制作に励むようになりました。

暮らしの場を写した一枚、そこにご本人の思いを乗せた一言を添えます。

私たちは、これらを一冊に製本し、ご利用者一人ひとりに贈っています。

——意味を書き切らないからこそ、豊かに読み取れる。

このシンプルな答えに辿りつくまでに、3年の期間を要しました。

覚え書き(読み上げません)《生活の文脈は写真で示し、その意味は一つに固定しない。だから、読み手が本人の語りと写真を根拠に、意味を解釈する余地が生まれる。》
680秒5:00

センサーとAIが介護記録を代替する時代です

私たちが自らの仕事の価値を問い質すのは、いまだと思います。

調理場に立ち、野菜を炒める姿。時間をかけて湯呑を口元へ運んでいく姿。

それら出来事一つ一つの背景に、その人らしい人柄や歴史を読み取り、

いちいち驚き、感嘆の声を上げていくことです。

同じ光景は、このように申し送ることもできます。

「本日の水分摂取量、100ccでしたね。」

「少ないね、もう少し声かけが必要ですね。」

どちらも同じ現実を観察しています。

映し出される世界が異なるのは、見ている視点が異なるからです。

「あなたは確かに、豊かに人生を送ることができた。」

このように証言するために、介護サービスをご利用する一人ひとりの手元に、

フォトブックが届けられていく社会が実現されること。

——これが、私の夢です。

7思いを馳せる30秒5:30

最後に、あるご利用者のフォトブックを、動画でご覧いただきます。

どうか、ご自分の大切な人を思い浮かべながら、ご覧ください。

自分の人生が、良き人生であったと、いつか、誰かが、振り返れるように。

私たちは今日も、思いを馳せていきます。

その人そのものへ。

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色が付いている行が、いまいるはずの節です。
〔 〕と《 》は読み上げません。